びまん性肺疾患グループの診療・研究

「びまん性肺疾患」とは、胸部エックス線や胸部CT画像において、病変が両側の肺に広範に拡がった肺疾患を指しますが、当科では齋藤教授、神尾准教授を中心に、原因不明の間質性肺炎や膠原病などに伴う間質性肺炎、過敏性肺炎、抗癌薬などによる薬剤性肺障害などの基礎から臨床にわたる研究を幅広く行っています。

診療と研究

びまん性肺疾患の診療では、詳細な問診に加え身体所見・血液検査、画像所見、呼吸機能検査が重要です。これらに加え気管支鏡検査を可能な限り行い、気管支肺胞洗浄や病理組織学的検索を行いますが、これまでのTBLBのみでなく2022年4月より導入されたクライオバイオプシー(TBLC)を積極的に行っています。TBLCの手技では神奈川県立循環器呼吸器病センターと連携し、これまでに症例の集積が進んでおります(2024年度実績72例)。症例は当科のカンファレンスで定期的に検討し、問題のある症例はさらに当院病理部(寺崎准教授、功刀准教授ら)とともに臨床病理検討会を行っています。これらを通じて積極的に地方会などでも症例報告を行い、英文誌を含め論文発表しています。

TBLCはプローブ先端の温度を急激に下げることで、接触する組織を凍結させて採取します。これまでの鉗子肺生検より、より大きな組織を採取することができるため、詳細な検討が可能となります(ドクターサロン65巻9月号)。当科でも症例が集積したため、日本呼吸器内視鏡学会学術集会で、習熟度と安全性に関する研究を発表致しました(鏑木ら)。さらにこの成果は国際誌に発表いたしました。(Kaburaki S, et al. Transbronchial lung cryobiopsy for interstitial lung disease: early experience, learning curve, and the impact of sedation on complication rates at a single centre in Japan. BMC Pulm Med. 2024;24:540.)

臨床研究では当院付属4病院で連携し、以下の様な臨床研究を行っています。

  1. 慢性好酸球性肺炎のステロイド治療後の再発における背景因子と治療方針に関する研究
  2. 特発性肺線維症/進行性肺線維症に対する抗線維化薬の導入遅延・治療継続阻害に関わる因子についての後方視的検討
  3. 当院における膠原病関連間質性肺炎症例に合併する肺癌の臨床的特徴
  4. 抗ARS抗体陽性間質性肺疾患におけるステロイドパルス療法の有効性と安全性:従来療法との比較研究

これらの共同研究を通じた成果も現在論文投稿を行っています。

④については前向きの検討を予定しておりますが、当科の抗ARS抗体症候群に伴う間質性肺炎62症例を
象にしたレトロスペクティブな研究で、ステロイドパルス療法が従来療法と同等の効果を示し、副腎皮質ステロイドの早期減量や有害事象の低減などの有用性があることを報告しております。(Kaburaki S, et al. Pulse corticosteroid therapy in interstitial lung disease-associated with anti-aminoacyl-tRNA synthetase antibodies: Comparable efficacy with potential for reduced adverse events. Respir Med. 2025:241:108070 )

当科における臨床経験から研究が始まったIPF急性増悪に対するPMX吸着療法は、その後行われた「先進医療B」の結果に基づき、希少疾患用医療機器指定を取得しました(R3 機)第32号)。さらに日本呼吸器学会びまん性肺疾患部会と協力して「適正使用指針」を策定し、国内20施設で6年間の市販後調査が行われることになりまたが、当科も参加しエビデンスの構築に寄与して参りたいと存じます。

基礎研究

基礎研究では、トランスレーショナルリサーチやリバーストランスレーショナルリサーチを積極的に推進しています。特に肺線維化病態とその制御に関する研究や薬剤性肺障害の研究を中心に行っています。薬剤性肺障害の研究では、Bortezomibによる血管透過性亢進に伴う肺水腫が、Rho依存性に炎症性環境下で増強されることを示し報告しました。(Nishima S, et al. Bortezomib induces Rho-dependent hyperpermeability of endothelial cells synergistically with inflammatory mediators. BMC Pulm Med. 2024;24(1):617)。
他の基礎研究では、制御性T細胞や自家骨髄細胞を用いた肺線維化病態の制御に関する研究、MAGI2-PTEN axisと筋線維芽細胞の分化制御に関する研究、マイクロRNAを用いた新規治療薬の開発などを行っています。マイクロRNAは2024年度のノーベル生理学・医学賞が授与され、新たな遺伝子制御メカニズムとして今後治療薬への応用も期待されるものです。このマイクロRNAについては、われわれの研究でも、mTORC2抑制や筋線維芽細胞への分化抑制作用をもつものなど抗線維化作用が期待されるものが同定され、現在東京理科大学薬学部、日油株式会社と共同で、IPFに対するマイクロRNA内封ナノ粒子吸入療法の開発研究を推進しています。

(文責:神尾孝一郎)