肺癌診療グループの診療・研究

肺癌診療グループは、がん診療連携拠点病院として、最先端かつ高精度な個別化医療の実践に注力しています。遺伝子パネル検査をはじめとする分子診断技術を駆使し、腫瘍の遺伝子変異および分子プロファイルを精緻に解析したうえで、呼吸器外科、放射線治療科、病理診断科と密接に連携しています。これらの診療科との定期的な合同カンファレンスを通じて、エビデンスと個別患者背景の両面を踏まえた最適治療戦略を策定・提供しています。さらに、臨床研究や治験を通じた新規治療法の開発にも積極的に参画するとともに、基礎研究にも力を注ぎ、肺癌医療の進歩に資する学術的貢献を続けています。

診療

年間約2,000件の肺癌外来化学療法を実施しており、呼吸器外科や放射線治療科との緊密な協働体制のもと、術後補助化学療法や化学放射線併用療法を積極的に展開しています。診療には、がん薬物療法専門医をはじめ、がん専門薬剤師、がん看護専門看護師、医療ソーシャルワーカーなど高度な専門性を有する多職種が参画し、診断から治療、支持療法、さらには社会的支援に至るまでを包含したシームレスなチーム医療を実践しています。こうした体制により、患者一人ひとりに最適化された治療戦略を提供するとともに、安心かつ質の高い療養環境の実現に努めています。同時に個別化医療の実現に向けた臨床研究と実地医療の橋渡しを行い、国際的にも発信力のある学術的成果を挙げています。

臨床研究

清家教授および笠原教授の主導のもと、多岐にわたる肺癌領域の臨床研究および治験を精力的に推進しています。これまで、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を含む新規抗癌薬の臨床開発をはじめ、遺伝子変異など基礎研究の成果を臨床応用へと橋渡しする臨床試験、さらに薬剤性肺障害に関する研究などを展開してまいりました。北東日本研究機構(NEJSG)、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)、胸部腫瘍臨床研究機構(TORG)といった国内有数の臨床研究ネットワークにも積極的に参画し、共同研究を通じてエビデンス創出に寄与しています。
2024年度はNEJ057試験の結果に基づき、当科の戸塚医師が共同筆頭著者とした論文がJAMA Oncologyに掲載されました(Immunotherapy or Chemoimmunotherapy in Older Adults With Advanced Non-Small Cell Lung Cancer. JAMA Oncol. 1;10(4):439-447, 2024)。この試験は、75歳以上の未治療進行・再発非小細胞肺癌(NSCLC)患者を対象に、ICI+化学療法併用療法とICI単剤療法の有効性と安全性を評価した多施設後ろ向きコホート研究です。
日本医科大学関連施設から構成される東日本呼吸器医研究会(EJCG)では、EGFR変異陽性非小細胞肺癌患者において、脳転移に対するオシメルチニブ単独療法と局所治療併用療法を比較した多施設共同研究結果を戸塚医師が報告しました(Osimertinib plus local treatment for brain metastases versus osimertinib alone in patients with EGFR-Mutant Non-Small Cell Lung Cancer. Lung Cancer. 191:107540, 2024)。オシメルチニブに局所治療を追加することで、脳病変の制御や全生存期間の延長が得られる可能性が示されました。
また、特発性間質性肺炎を合併する進行期小細胞肺癌患者を対象としたカルボプラチンとエトポシド併用療法の有効性と安全性を検討した第II相試験の結果を松本医師が発表しました(Carboplatin in combination with etoposide for advanced small cell lung cancer complicated with idiopathic interstitial pneumonia: a single-arm phase II study. BMC Pulm Med. 8;25(1):9, 2025)。間質性肺炎の増悪リスクを伴う難治症例においても、一定の治療効果と許容可能な安全性が示されました。
日本医科大学が主導する医師主導治験としては、清家教授と宮永准教授を主導とするNEJ048A/NEXUS試験(未治療進行肺扁平上皮癌に対するネシツムマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセル+ペムブロリズマブ併用療法の第Ⅰ/Ⅱ相試験)および久保田前教授、中道医長を治験調整医師とする UBE-Q 試験(未治療進行再発扁平上皮がん患者を対象にペムブロリズマブ+パクリタキセル(アルブミン懸濁型)+カルボプラチン療法にウベニメクスを併用する第Ⅱ相試験)の症例登録が終了し、2026年に国際学会発表を予定しています。

基礎研究

清家教授、笠原教授、宮永准教授を中心に、肺癌患者の予後改善を目的としたトランスレーショナルリサーチを精力的に推進しています。最新の遺伝子発現解析、プロテオミクス解析、マイクロRNA解析、マイクロバイオーム解析などの先端分子解析手法を駆使し、新規治療法および治療標的の開発に取り組んでいます。これまでに、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)や新規分子標的薬に対する感受性に関連する遺伝子やマイクロRNAなどのバイオマーカーを同定し、国内外の学術誌に報告してきました。また、肺癌および悪性中皮腫の発癌機構と治療標的の探索、個別化治療の基盤的検討を進めています。特発性肺線維症合併肺癌の発癌メカニズムや、慢性閉塞性肺疾患(COPD)合併肺癌の分子生物学的背景の解明も重要なテーマとして位置づけられており、得られた知見を高精度医療へ応用することを目指しています。
2024年度は、肺癌診療グループから3名の大学院生が論文を発表し学位を取得しました(Onda N, Nakamichi S, Seike M, et al. Afatinib plus PEM and CBDCA overcome osimertinib resistance in EGFR-mutated NSCLC with high thrombospondin-1 expression. Cancer Sci. 115(8):2718-2728, 2024)(Tozuka T, Noro R, Seike M, et al. Phosphoproteomic Analysis Identified Mutual Phosphorylation of FAK and Src as a Mechanism of Osimertinib Resistance in EGFR-Mutant Lung Cancer. JTO Clin Res Rep. 21;5(4):100668, 2024)(Hayashi A, Kamio K, Miyanaga A, Seike M, et al. Ivermectin Enhances Paclitaxel Efficacy by Overcoming Resistance Through Modulation of ABCB1 in Non-small Cell Lung Cancer. Anticancer Res. 44(12):5271-5282, 2024)。学位論文の内容につきましては、大学院学位記取得者の項で詳細をご紹介いたします。2024年度の肺癌グループの研究室には、合計10名の大学院生が在籍しており、各々研究テーマの日々実験に励んでおります。
当教室は、学際的かつ先進的な共同研究を積極的に推進しており、早稲田大学、東京理科大学、東京農工大学と共同研究体制を築いております。さらに、日本医科大学先端医学研究所ならびに大学院医学研究科代謝・栄養学分野との共同研究のもと、包括的かつ体系的な研究基盤を整備しております。これらの連携を通じて、患者由来オルガノイドライブラリーを確立し、最新の遺伝子発現解析、プロテオミクス解析、マイクロRNA解析などの先端的手法を駆使したトランスレーショナルリサーチを展開し、新規治療戦略の創出を目指しております。岩井佳子大学院教授の細胞生物学の研究室との共同研究においては、柏田医師が血中のPD-L1結合能を有する可溶性が免疫関連有害事象(irAE)の発現と関連することを論文(Lysosomal degradation of PD-L1 is associated with immune-related adverse events during anti-PD-L1 immunotherapy in NSCLC patients. Front Pharmacol. 10:15:1384733, 2024)で報告しました。
また、日本医科大学において、当教室を中心に私立大学戦略的研究基盤形成支援事業〈Clinical Rebiopsy Bank Project(臨床再生検検体バンク化事業)を基盤とした包括的がん治療開発拠点形成〉を継続的に推進しています。本プロジェクトでは、拠点研究者間の有機的連携を促進しつつ、肺癌患者における治療開始前、治療中、再発時の臨床検体を系統的に収集しています。これらの検体を用い、薬物療法における耐性化メカニズムの解明や治療効果判定法の開発を進めており、ゲノム・トランスクリプトーム・エピゲノム・プロテオーム・メタボローム解析を時系列的に実施することで、肺癌治療における革新的アプローチの創出を目指しています。これまでに、臨床検体を用いたトランスレーショナルリサーチを推進し、医工連携による成果を国内外に報告してきました。次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子解析に基づき、東京理科大学や早稲田大学との共同研究を展開しています。2023年からは、肺癌診療のアンメットニーズの一つであるCOPD合併肺癌の発癌機構解明に向けた分子生物学的研究を新たに開始しました。

学会活動

学会発表も活発で2024年度には複数の受賞がありました。第65回日本肺癌学会学術集会で、戸塚猛大医師が発表論文(Immunotherapy or Chemoimmunotherapy in Older Adults With Advanced Non-Small Cell Lung Cancer. JAMA Oncol. 1;10(4):439-447.2024)をもとに若手奨励賞を受賞しました。また、第92回日本医科大学医学会総会・学術集会にて福泉彩医師が(特発性肺線維症合併肺癌(IPF-LC)におけるCAMD1とSPC25遺伝子変異)をもとに優秀演題賞に選ばれました。
海外学会では、2024 ASCO Annual Meeting(シカゴ開催)では戸塚医師、加藤医師、2024 World Conference on Lung Cancer(サンディエゴ開催)では戸塚医師、Asian Oncology Society 2024(西安開催)では鄒医師、ESMO ASIA Congress 2024(シンガポール開催)では寺嶋医師が発表するなど、肺癌に関する最新の研究成果の数々を海外に発信致しました。
研究活動の基盤強化のため、毎週水曜日には呼吸器内科全体での抄読会(ハイブリッド形式)や大学院生による研究進捗報告・ディスカッションを行い、学内基礎医学教室との共同研究や人的交流も積極的に進めています。
日本医科大学呼吸器内科肺癌診療グループは、高度な臨床・基礎研究を通じて、患者一人ひとりに最適化された個別化医療の実現と発展に寄与すべく、今後も研鑽を重ねて参ります。

(文責:武内 進)